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クリスマス前夜
部屋は杉の香りに満ちて冬の針葉樹林にいる気分になる 完成したリースをすべて部屋の外に運び出し、冷えた部屋に思い切り暖房を入れる ゆっくりと温度が上がって、片付けも済ませると、もう日付が変わろうとしていた 熱いシャワーを浴びて、清々しい空間に戻ってくる 体は疲れているけれど、頭は冴えていた テーブルの上の時計を見て私は電話を手に取った 23時55分。3回のコール 「はい、羊屋です」 聞きなれた声が聞こえて私はほっとする 「こんばんは。配達お願いできますか」 「はい、こんばんは。紅さん、今日も遅くまで仕事ですか、」 「ええ、さきほど終わりました」 「お疲れ様です、大丈夫ですよ、0時半頃になりますが」 「お願いします」 「何になさいます、」 「今日のお勧めはなんですか、」 「蜂蜜生姜のミルクです」 「あ、ではそれをお願いします」 「はい、では後ほど伺いますので」 電話を切ってベッドに横になる 部屋はすっかり快適な室温になり、私はルームシューズを脱いで 開けたままのカーテン越しに漆黒の夜を見た ホットミルク専門店「羊屋」は、近所にある変わった店で夜間しか営業していない しかも、店は閉店したあと、部屋で寝る前のホットミルクを味わいたい客の為に 配達をしていた 店主は私より少し年上の、穏やかな人だった 明日の納品の確認を済ませ、読みかけの本を手にした時玄関のベルが鳴った 0時35分 私は大きな白いストールを羽織ってドアを開ける 「こんばんは」 トートバッグを持った店主が立っていた。 ミルクティー色の琺瑯のポットがフエルトのポットカバーをかけられて 入っているはずだ 「こんばんは。冷えますね」 「ええ、本当に。…良い香りですね」 「ああ、杉です。清々しいでしょう、夜更けですけど」 「確かに、とても心地よいですね」 一瞬の沈黙 私は口を開こうとして、黙る また沈黙 ほのかに甘い香りが彼の持つバッグから流れてくる 彼は笑顔でバッグを差し出した 「明日はクリスマスですね、あ、もう今日ですか」 「そう、クリスマスリースの仕事も今日で終わりです」 「お正月はまた忙しいのでしょう、」 「ええ、それなりに」 私はもごもご答えながらバッグを受け取り、ちょっと下を向く 「待っててください」 部屋に戻ってバッグをテーブルに置く そして玄関に戻る途中、すでにラッピングを済ませたリースの箱を一つ手にした 「どうぞ」 「え、」 戸惑うように店主は私を見る 「今年はこれを飾ってください、良ければ」 「・・・いいの、」 「もちろんです」 「ありがとう」 彼は丁寧に箱を受け取ると、何か言おうとして、しかし黙った また沈黙 「あの、」 「はい」 「ホットミルク、飲みません、」 「・・・・・・」 「まだ配達ありますか」 「いや、紅さんが最後です」 「おっしゃるじゃないですか、ホットミルクは自分で作るより 誰かに作ってもらったほうが美味しいこともあるって」 彼が微笑んだ 「・・・そう、そのほうが美味しいことがある。・・・たいていは そういうものです」 「だから、私がたまには作ります」 彼は私の顔をじっと見る 私はうつむいて彼の言葉を待つ 「今日は特別な日だね」 「・・・クリスマスですから」 「違うよ、君が主で僕がお客になった日」 顔を上げると、笑っている彼の顔 私もやっと微笑んだ 12月24日 今日はクリスマスイブだ
by solamame-mk
| 2014-12-24 02:01
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